IFRS 概念フレームワーク

概念フレームワーク、英語ではConceptual Framework for Financial Statements。財務諸表のための基本的な考え方の枠組みとでも和訳しましょうか。IFRSの根底に流れる基本的な考え方という感じでしょうか。原則主義によっているIFRSでは、設定者側が会計基準を制定する場合にも、利用者側がその会計基準を理解、会計方針を設定する場合にも、会計基準の論理的な首尾一貫性を確保することが重要です。そこで重要となるのが概念フレームワーク、統一された基本的な考え方のもとで、すべての会計基準は設定されていますよ、その考え方に従って理解・利用してくださいね、そういう目的で設定・公開されているものということができるでしょう。

概念フレームワークは、その重要性から、各方面の調整のもと非常に慎重に改訂が進められており、2015年に公開草案が出されましたが、最終版は2017年の予定が延期され、IFRS財団のHPの情報によると2018年の第1四半期に公開される予定であるとされています。

2015年に出された公開草案では、まず、概念フレームワークは、会計基準ではなく、あくまで考え方だと明記しています。当然具体的な会計基準は各IFRS基準に委ねているわけですが、概念フレームワークはたとえそれらの会計基準の基本となる考え方を示すものであるとしても、それらの特定の会計基準に優先するものではないと位置づけています。

そのうえで基本的な考え方を規定しているわけですが、例えば、財務諸表の目的については、「現在及び潜在的な投資家、貸付者その他の債権者が企業に資源を提供する際に、それらの利害関係者に対してその意思決定のために有用な財務情報を提供することである」としています。ここまでは、一般的に言われる財務諸表の目的と同じですが、これに「経営者の受託責任(Stewardship)を評価するために必要とされる情報の提供する」という目的を付け加えることが提案されています。こうなってくると業績評価の視点が若干強くなってくるかもしれません。

有用な財務情報の定義づけなどにも試みています。①目的に適合していること②表現が適切かつ事実に忠実であること、この2点を有用な財務諸表の基本的な特性と定義しています。そのために、③比較可能性が確保されていること④検証が可能であること⑤タイムリーな情報であること、そして⑥理解が容易であること、そういった特性を備えた財務情報を有用な財務情報という、そう定義づけています。

こういった情報が有用な財務情報ですと概念フレームワークで謡っているように(おそらく最終版でも)、IFRSでは詳しく会社の状況や会計処理の内容を記載すべき、注記は多ければ多いほど、財務情報の利用者は理解が容易になるというような考えは必ずしも正しくはありません。IFRSのもとでは、なるべく詳細は情報開示が必要で、詳細な注記をする必要がある、膨大な情報開示が必要になるんですよ、というような展開になりがちです。実際そういう財務情報を開示しているところが特に上場企業を中心に多いのが実態です。

話しが少し脱線しますが、そういう膨大な情報詰め込み型の財務諸表に対して、IFRSが警鈴をならしているのはご存知でしょうか。

2016年に改訂版が公開されたIAS1号において追加された30A、31の規定がそうした膨大化するIFRSによる財務情報に歯止めをかけるのではないかと言われています。すなわち、30Aには、性質の異なる情報を混ぜこぜにしたり、重要でない情報ばかり集めたりして、重要な情報が分かりにくくなるような、利用者の理解を阻害するようなことはしてならないと規定し、31には、IFRSが開示を要求している項目でも重要性がない場合には開示する必要がないことが明記されました。これによって、なんでもかんでも説明しまくる、注記しまくるのがIFRSという間違った風潮に歯止めがかかるというように言われています。

話しを概念フレームワークに戻しましょう。

概念フレームワークでは、他にも財務諸表の構成要素である、資産・負債・資本・収益・費用を定義しています。なんとなくわかっているようで、いざ定義するとなると結構難しそうですね。公開草案での定義は以下のような感じです。

資産:企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源

負債:企業が過去の事象の結果として経済的資源を移転する現在の義務

資本:企業のすべての負債を控除したあとの資産に対する残余部分

収益:資本の増加を生じる資産の増加または負債の減少

費用:資本の減少を生じる資産の減少または負債の増加

なんと、収益と費用を、BS項目で説明しています。PL項目はBS項目の変動要因でしかないという、まさにIFRSのBS重視の考え方が如実に表現されている部分です。PLを重視する我々に日本人の感覚からするととても違和感のある定義ですが、こうしたスタンスの理解がIFRSの理解には実はとても重要なんですね。

このような形で、財務会計論的にIFRSの基本となる考え方(の枠組み)を示したものが概念フレームワークと言われるものです。記載されている内容は概して抽象的ですが、IFRSの理解の助けになるものです。まずは、2018年の第1四半期に公開が予定されている、最終版の概念フレームワークに注目したいと思います。

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