今回から、収益認識会計基準の変更の目玉である5つのステップについてひとつずつ説明していきます。
前回説明した通り、新しい会計基準においては、売上高計上に至るまでを5つのステップに分解し、それぞれの条件のすべてをクリアしたものだけが売上高を計上できるという考え方になりました。今回はその最初のステップである「顧客との契約を識別する」を解説します。
(概要)
売上を計上するには相手方に何らかのモノやサービスを提供することが必要ですが、その前提としてそのモノやサービスを提供する約束(=契約)が必要なことは想像がつくかと思います。このため、会計基準における最初のステップは「顧客(=相手方)との契約(=約束)を識別する」になりました。
(契約とは)
契約と聞くと契約書を作ってハンコを押して…と書面がないといけないと思うかもしれませんが、会計基準においては、書面の他にも口頭や契約慣行(これまでそういうふうにしていた実績のこと)による契約も有効と規定しています(会計基準第20項)。
(契約識別の要件)
識別とは本会計基準における契約として認定するという意味です。このためどんな契約でもOKということではなく一定の要件を満たしたものでなくてはいけません。具体的には以下のように規定されています(会計基準第19項(1)~(5))。
・双方が契約を承諾している
・引き渡すモノやサービスが特定されている
・支払い条件が決まっている
・実態があること
・代金が支払える可能性が高い
なお、この要件を満たさない場合は満たすようになった時点で次のステップ(ステップ2)に進むことになります。
(契約の結合)
ひとくちに契約といっても複数の契約を同時に締結することがあります。例えばスマートフォンを新規に購入する場合、本体購入契約と回線の使用契約を結ぶことがあります。これは、「スマホを使う」という目的を達成するために同時に締結した契約です。会計基準ではこのように同一の目的を達成するために締結した契約については、「契約の結合」に該当するものとして、複数の契約をひとつの契約とみなして処理することとしました。これにより契約形態がどのようなものであっても目的が同一であれば、同じ処理となるよう会計基準で手当てがなされています。
(契約の変更)
契約締結後に契約内容の変更を行うことがあります。契約の範囲が拡大(=対象や数量が増える)したり、価格が増額された場合は、その部分を別契約として処理することになりました。新たに契約したことと同じであるという意味です。一方で、範囲や価格が増えないものについては、既存の契約の修正として処理します。
(契約の結合・変更の影響)
通常の物品販売契約では契約の結合・変更に該当したとしても、影響はそれほどありませんが、工事契約等の請負契約に工事進行基準を適用している場合は、今後の売上計上金額に大きな影響を及ぼす可能性がありますので、建設やソフトウェア開発を行っている企業は注意が必要でしょう。
次回は、「ステップ2:契約における履行義務を識別する」を解説します。
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