収益認識基準かんたん!解説にお付き合いいただきありがとうございます。今回もポイントを絞って解説していきます。皆様の実務の一助になれば幸いです。
さて、今回は設例9「履行義務の充足に係る進捗度の見積り」です。いわゆる工事進行基準における例外的な取り扱いについての設例となります。工事進行基準においては原価比例法により発生した原価の総原価に占める割合を進捗度とする方式が一般的かと思います。本設例では進捗度に含めるべきでない原価がある場合、それを除いて工事進行基準を適用することが妥当であるということが説明されています。
1.前提条件
(1)A社(12月決算)はX1年10月にB社保有の建物を改装してエレベーターを設置する契約をB社と締結した(契約金額:10,000千円)。
(2)予想原価は以下のとおりである。
エレベーター 3,000千円(総原価に対して重要な原価と判断されている)
その他の原価 5,000千円
合計 8,000千円
(3)A社は、本履行義務(改装及びエレベーター設置)の進捗度を見積もる方法として、コストに基づくインプット法(=工事進行基準)を採用している。
(4)エレベーター調達コストが収益認識適用指針第21・22項に該当するかどうかを判定する。
①A社は改装及びエレベーター設置サービスは一定の期間にわたり充足される単一の履行義務であると判断した。
②B社はX1年11月にエレベーターが現地引渡しされた時点でその支配を獲得するが、その設置はX2年以降となる。
③エレベーターは既製品でA社はその設計や製造に関与していない。
(5)以上の結果より、A社はエレベーター原価を進捗度に含めると過大表示されることになると判断し、エレベーター原価を進捗度計算から除外する。なお、エレベーターに係る利益はゼロと見積もったことから契約金額のうちエレベーター部分は原価と同額の3,000千円とした。
(6)X1年12月末時点における発生原価(エレベーター除く)は1,000千円であった。
2.会計処理
(1)X1年12月末における収益の計上
(借方) 契約資産 4,400 (貸方) 工事収益 4,400
→(契約金額10,000千円-エレベーター部分3,000千円)×進捗度20%+エレベーター部分3,000千円
→進捗度20%=発生原価1,000千円÷予想原価のうちその他の原価5,000千円
(2)X1年12月末における原価の計上
(借方) 工事原価 4,000 (貸方) 買掛金 4,000
→発生原価1,000千円+エレベーター原価3,000千円
3.解説
工事進行基準適用において、外部から調達した機器等の設置について進捗度に含めるべきか否かという論点は従来から実務上存在していました。しかし工事契約に関する会計基準第56項にわずかに「決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するように調整が必要となる。」との記載があるのみで、具体的な処理方法は実務慣行に委ねられていたのが実情です。本基準適用により実務上こういった場合の処理方法がクリアになることと思われます。
4.参考
収益認識適用指針第21項
財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写しないものの影響は、インプット法に反映しない。
同 第22項
コストに基づくインプット法を使用するにあたっては、次の(1)又は(2)の状況において、履行義務の充足に係る進捗度の見積りを修正するかどうかを判断する。
(1) 発生したコストが、履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合
例えば、契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益は認識しない。
(2) 発生したコストが、履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合
インプット法を修正して、発生したコストの額で収益を認識するかどうかを判断する。例えば、契約における取引開始日に次の①から④の要件のすべてが満たされると見込まれる場合には、企業の履行を忠実に描写するために、インプット法に使用される財のコストの額で収益を認識することが適切となる可能性がある。
① 当該財が別個のものではないこと
② 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当程度前に、顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること
③ 移転する財のコストの額について、履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること
④ 企業が当該財を第三者から調達し、当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと
収益認識基準についてお困りごとがあれば、info@sousei-audit.or.jpまでご連絡ください。担当者(大高)から直接ご連絡させて頂きます。